中国淡水真珠の魅力 |
〜98'1月[季刊とうきょうジェラーズ11に掲載]〜 |
はじめに |
特にここ2〜3年、中国淡水真珠は目覚ましく進歩している。大珠が増え、今年の9mm珠は2年前の8mm珠を選る感覚で買えるようになった。
ちょうど4,5年前の7mmの感覚である。今でも生産のボリュームゾーンが4mmに変わりないが、大珠のサイズは2〜3年で1mm大きくなる感がある。
私が産地で見聞きした通説では、『養殖技術が進歩』、『本来2冬3夏の浜あげ珠が価格暴落期にぶつかり2〜4年養殖期間が伸びた』と2つの理由があげられている。とにかく今の珠のサイズは大きい。最近産地で購入した13mmは価格的には南洋珠の3倍はする。馬鹿げていると業界のプロには笑われると思うが、ここまで大きい無核マル珠は私も初めて。10年後にはそれほど珍しいサイズではなくなるかもしれない。これほど美しく大きな真珠を放置しておく理由はない。 |
近代中国淡水真珠は日本から技術が導入されたと聞く、その後香港業者によってマスプロダクションの道を突き進んだが、その間ずっと「日本の技術」がベースになっていたと言える。漂白して如何に連相を揃えるかという点ではあくまでアコヤ真珠の延長、悪く言えば「アコヤ真珠の代用品」の域を出ていない。ただし過酷な漂白処理のため珠が粉っぽくなったり、もともと純白や淡ピンクだった珠までが独特の透明感のないたクリームになってしまった。つい最近まで香港フェアで〔てんこ盛り〕で売られていたアレである。黒蝶貝や、白蝶貝から生まれる真珠はその色のバリエーションが楽しまれているのに、池蝶貝が生み出す無核真珠はその色が邪険に扱われた。オレンジ系、紫−ラベンダピンク系、白系の色を中心に、ピーコックグリーン、ピーコックブルー、ゴールド、レッド、黒…その色の幅は極めて広い。その美しい色が嫌われたのは何故か。
@色の幅が広過ぎ(連相が難しい) ジュエリーは本来、素材の持つ特徴を最大限に活かして然るべきではないのか?多彩な色を使いきれないのは業界の能力の限界か。カラーストン感覚で商品開発に取り組むメーカーの方が的を得ているのかも知れない。97年のIJT、ある真珠製品専門メーカーのブースで売り娘さんがウス巻のキズ珠を鮮明なオレンジ色に染めた真珠製品を指して、『これは和珠を使ってるんですよ!淡水より価値がありますよ!』…このセールストークには苦笑もしたが、胸が痛む。染色された珠は色変化がなく、規格が揃うので販売、取扱とも容易、工業製品として完成度が高い。そのメーカーの弁は、『淡水真珠の色は時間が経てば変わるので信用に関わる。染め珠は退色し難。売れてますよ……』。またマーケットには染色の漂白淡水真珠も相当量流通している。生産、販売の簡便さを求めて天然オレンジの珠を過酷な漂白の後にオレンジ色に染める。ジュエリーとはそんなもの?と疑問に思う私が古いのか。ならばセラミック模造パールでも開発すれば工業製品としてより完璧なスペックを持つ。半貴石も色が褪めていくものはあり、それでも合成ものや染色ものが天然石の価値を決して上回ることはない。 |
無核養殖は、真円を作るのは不得意である。中国真珠マルの大珠は非常に高価。その反面、形は多種多様。現在はアメリカ淡水と同じくおはじき型の有核真珠の増産も進んでいる。真円の有核淡水真珠が生産ラインに乗る日も遠くないと思われる。しかしながら他の真珠では見られない淡水真珠の形のバリエーションも捨て難い。形を活かした商品開発を進めれば、マーケットの潜在ニーズを引き出すことが十分可能では?残念ながらこれまでは色と同様、形の多様性がマイナス要素にもなっていた。
@原石からカットされる宝石と異なり、真珠は形のままを使う。 マスプロダクション、そしてコストダウン、形の統一性のないものは生産ラインに乗らない=短所なのだろうか。これまでは真円真珠向けに空枠の開発が進んだ。淡水真珠も形を幾つかに類型化し、共通に使える枠の開発は可能ではないのか?夢を売るジュエリーならば、珠の個性や商品のオリジナリティを消費者にアピール出来るこの真珠はまたと無い素材であり、鮮度の高い商品作りには絶好の素材の筈。既にあるメーカーでは不定形珠を汎用できるタイプの新しい枠の開発が進んでいる。面白いことに、これらの開発商品はユーザーに近い販路では極めて好調に売れているのに、既存の流通業者を通すと売行きが悪いという。まだまだ流通段階での偏見が強いのか。色眼鏡で見れば美しい珠を見逃す。 |
前述の通り無核であっても美しいとは限らないから、無核の価値をことさら強調するつもりはない。
が、真珠層の厚みから出る珠の美しさは底光りすると強調したい。97年4月のバーゼルフェア、6月のIJK,
9月の香港フェアで弊社の淡水真珠を続けて購入したイタリアのO氏は、11月にも弊社を訪れた。
その際、『バーゼルでこの珠に惚れました。三十数年前から日本のアコヤ真珠をイタリアに輸入しています。
この珠を見て、10年前までのアコヤの綺麗なマキを思い出します。この美しい淡水真珠をイタリアの取引先に売り込んでいるのですが、
見てくれるのは10社に2社、そして購入するのは1社、これがイタリアの現状です。しかし、自分の眼を信じて今後もこの真珠の良さを訴えてゆきます。』
そのO氏が買う珠はその度に、より高品質、高価なものになっている。弊社が日本で販売活動する限りでは、淡水と聞くだけで門前払いの業者がほとんどであり、
O氏のイタリアの現状にも及ばないが、最近は強い手応えを感じる。アコヤ真珠の不振が原因か、良質淡水真珠の認識が深まったのか。
とにかく、この真珠に熱意を持ち始めたプロは着実に増えている。真珠は真珠層(マキ)が命のはず、丸みと生産量を重視するあまり、
真珠の一番大事なものを忘れてはいないのか。大粒で美しい淡水真珠をその眼で見れば納得する。
97年バーゼルでの大口販売先の内訳は、イタリアO氏と米国のアメリカ淡水業者、そして以外にも香港の南洋珠ジュエリーメーカー2社、
各社とその後も取引が続いている。残念ながら日本は上位に入らなかった。 |
魅力その4 〜希少性?〜 |
減産の方向に向かっていると言っても淡水真珠の総生産量は膨大。その反面、最近購入した片穴用9mm(一部10mm) 500gに満たないマル珠は22トンの中から選びぬかれた。9mmアップのライスや10mmアップのボタン型、変形ボタンを加えてもトップグレードは 2kg(0.01%)に満たない。希少性が極めて高い。産地でも香港フェアの会場でも、トップ珠が見当たらないのはこのため。 トップ珠を求めて外人バイヤーが北京に買いに行くという報告も聞いている。大量ロットで購入し価格を抑える香港商人も徐々に変わり、 最近は産地でもセレクト買いを始めた。この面で弊社の貢献度は高い。現地大手仲買を相手に今でこそ一個一個のセレクト買い付けが日常的になったが、 これはごく最近のこと。以前はよほど高値で買わされるか、相手にされなかった。大手仲買を頼らず、現地真珠市場で多数のブースを相手に丹念に選っていたのでは量、価格とも話にならない。 今は偶然の産物にすぎない珠をこまめに選るしかない。ジュエリーとして、この希少性は非常に大きな魅力。 希少性の高い大粒トップ珠だけでは商材としてボリュームに欠ける思う大手業者には、連材や7,8mm珠を加えればそれなりの商い量になるはず。 私を含め、むしろ真珠専門業者でない者が素直にこの珠の美しさに心を動かされ、製品化の願望を抱くようだ。 貴石や半貴石製品を主体に手掛けるジュエリーメーカーがこの珠を活かした商品開発に取組んでいる。商品開発には相当の精力と時間を注ぎ込んでいるものと想像する。 美しい淡水真珠の魅力に魅かれて産地に通って10年、珠本来の美しさが活かされ、地に落ちた名誉が回復される日は近いと思う。 |
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